秘密を共有する青年たちのサスペンス「ロープ」

アルフレッド・ヒッチコック監督

二人の青年が同級生を絞殺する。動機は彼らがその友人より優れていることを証明するため。
そして死体を部屋に隠したまま、同級生の家族や婚約者たちを招いてホームパーティーを開く。完全犯罪をやりおおせた高揚感から青年はさらにスリルを求めるが、次第に犯行が露呈していくーー

登場人物

- ブラントン - 計画の首謀者。自信家で秀才肌。バリッとスーツを着てちょっとキザな風体は大学生というより青年実業家。
- フィリップ - ピアニストの卵。やや気弱だが、感情の起伏が激しい。

あらすじの通り、冒頭二人がロープで男の首を絞めて殺人を終えたところから始まり、残りの時間はそれがバレるか?犯人の二人はどうなる?とヒヤヒヤしつづけるサスペンス。
ミステリーではないので、よく練られた完全犯罪トリックやそれを暴く探偵の名推理といった展開はほぼない。

二人は(少なくとも)中学生時代からの付き合いで、殺人の動機は二人の中学時代に寮監だった先生の持論が元になっている。とはいえ計画と指示はブラントンによるもので、フィリップは手を下したものの終始ビクビクしているし、そんな上下関係に不満もある。

自信家が完全犯罪をたくらむと言うと、それはもう破綻するのがお約束ですよね。

しかもブラントンはスリルを味わいたくてさらに危険度が増すお遊びを重ねる。
例えば死体を隠したチェストをパーティーの際のテーブルとして使ったり、殺人の物証をそれとはわからないようにアピールする。チェストは背の低い長持のような形で、ダイニングにあった燭台まで並べたので「まるで祭壇みたいだ」と嬉しそうにしているが、フィリップも見ているこちらも「やめろやめろ」と言いたくなる。

フィリップも爆弾を抱えていて、気弱でネガティブだけどその不満やストレスがいつ爆発するかわからない。ブラントンの無神経さに対してはもちろん、パーティー中の参加者の何気ない会話でも、不意に激高したり気が動転してグラスを割ったりする。あるいはそうして周囲を不審がらせたことに対して不安感が高まると、ブラントンにいきなり詰め寄ることもある。そのたびに「声が大きい!」「慌てるんじゃない!」と心配になる。

それ以外でも偶然やうっかりミスから次第にほころびが生まれ、招待客のうち、例の寮監だった先生は疑惑を深めていく。いかにも寮監らしい鋭い目つき。

ところで先生が昔に説いたのはニーチェの理論で、既存の道徳や道徳を否定し、自分の中で価値観を確立できるのがよいとしていた。突き詰めれば罪、殺人すら犯すことのできるものはすぐれた「超人」なのだと。(哲学は専門外なので誤解があるかも)
パーティーの中でも先生はこの説を元に議論をぶつし、それで保守的な父親が明らかに気分を害していても話を続けるし、変わり者の哲学者、学者先生として紹介されている。ところがいつの間にかブラントンと立場が入れ替わっているように凡人からは見えました。

ストーリー以外のところでは撮り方がいわゆる長回しなのも特徴。物語の舞台となる場所はブラントンが住む(そして犯行現場の)アパートに限られていて、そのリビング、玄関ホール、ダイニング、あとはキッチンの入口付近が少し見える程度。その中をカメラがゆっくりと動き、実際の時間と同じように進んでいく。
元は芝居ということだが、特に最後の余韻で舞台劇っぽいと感じた。
ちなみにしばしばカメラが人の背中を大写しにするのはフィルムのつなぎ目をごまかすためらしい。

そして、なぜか二人の顔が近い。密談するとか室内劇だからという点を差し引いても近い。
同級生のはずなのにいつの間にかできてしまう上下関係を、片方は時折不満を抱えるが離れようとしない。そして二人で共有する殺人という秘密。ちょっとBLっぽい感じがした。


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